中国に狙われる地方自治体 ~ 大阪港湾MOUと咲洲メガソーラー

記録票 / EXPOSURE RECORD
SHEET 02 · 全文掲載
この色は、審査を経ずに通った箇所
媒体
「正論」令和4年8月号 特集「電力と国家」
執筆
小坪慎也(福岡県行橋市議)
件名
大阪港MOU / 咲洲メガソーラー
状態
掲載誌 pp.60-67 ― 全文掲載

中国に狙われる地方自治体

18

咲洲メガソーラーの入札に参加できた期間
銀行の融資稟議を通すには、まず一カ月程度はかかる

地方から日本が切り崩されている――。こうした危機感を抱き、私は福岡県行橋市の地方議員として全国各地の地方議員と連携しながら、中国資本の進出などについて調査を続けてきました。

最近、大阪に注目が集まっています。大阪市長を務めた橋下徹氏が大阪湾に浮かぶ人工島、咲洲地区での大規模太陽光発電事業をめぐり、中国の上海電力の参入に便宜を図ったのではないかとの指摘が出たからです。橋下氏は否定していますが、疑惑のまなざしは向けられたままです。一体、何が問題なのか。私は仲間の地方議員たちと調査を進めているのですが、その過程で、別の深刻な問題が明らかになりました。咲洲の問題とあわせて、大阪を舞台に何が起きているかをお伝えしようと思います。

工程表 / PLAN

二つの事案 平成24年 ― 令和3年

マゼンタのΔは、審査・承認を経ずに通った手続きを示す。

期日 手続き Δ
咲洲メガソーラー
1 H24.12.05 「太陽光発電事業に限定した大阪市有財産の貸付」入札。応札は伸和工業と日光エナジー開発の連合体1者のみで、そのまま落札。二段階審査は行われず
2 H24.12.26 契約締結。以後、賃借料は支払われたが、1年3カ月にわたり工事は行われず。契約書の「六カ月以内に施工しなければ契約を解除できる」は適用されなかった
3 H25.10 連合体から「事業継承について」の申請。2社を社員とする合同会社へ継承。大阪市は「事業主体の同一性が確認できる」として承認
4 H26.07 日光エナジー開発が合同会社を退社し、上海電力日本が代表社員として加入。契約書13条により「届出」で完了。審査も拒否もない
大阪港MOU
5 R2.10.01 大阪港湾局が発足。府と市が共同設置した部局
6 R2.11.01 住民投票で大阪都構想は否決。組織は発足済みのため、そのまま存続
7 R3.12.16 武漢新港管理委員会とパートナーシップ港提携の覚書(MOU)を締結。湖北省が東京都で開く説明会の日程に合わせたものと大阪港湾局が回答
8 R3.12.17 在日中国大使館HPが、調印式を「帯路」と明記した記事を掲載

出典:本文中に記載の各記録による。

01手玉に取られた大阪港

まず、咲洲を所管する大阪港湾局を舞台に、中国とのある関係が明らかになりました。大阪港湾局は日本維新の会を率いた橋下徹氏らが大阪市と大阪府による二重行政の解消と、「大阪都」にするとした「大阪都構想」を先取りする形で府と市が共同設置した部局です。都構想自体は令和二年十一月一日の住民投票で潰えましたが、組織自体は投票直前の十月一日に発足したため、そのまま今に至っています。

その大阪港湾局が、新型コロナウイルスで話題となった中国・武漢市にある「武漢新港管理委員会」との間で昨年十二月、「パートナーシップ港協定」を締結しました。大阪府のHPには「中国の武漢新港管理委員会とパートナーシップ港提携に関する覚書(MOU)を締結します」とあり、一方の大阪市のHPでも「中国の武漢新港管理委員会とのパートナーシップ港提携に関する覚書(MOU)の締結について」と公表されています。

府の公表資料を丹念に見ると、覚書の調印式の式次第が盛り込まれていました。そこに協定を締結したプロジェクトの名称が書かれてあって「中国湖北―日本関西の川海連絡輸送一帯一路連通提携プロジェクト」となっていました。まるで中国共産党が進める「一帯一路」に大阪が参加を表明し、組み込まれたようになっており重大な問題だ。そう捉えた府民からの情報提供が切っ掛けで私たちが総力を挙げて事実関係をしっかり調査することとなりました。

なぜ、私たちがこの協定締結を重大と捉えたか。それはこの協定が大阪のみならず日本をまるごと「一帯一路」に組み込んでいく恐れがあると考えたからです。武漢は人口千百万人を超す巨大都市で港の規模も大阪を大きく上回っています。対等な関係を築くつもりが補完的な扱いしかされずに、隷属的な関係を強いられたすえに気づいたらすべてが飲み込まれていた――と後で気づくのでは遅いのです。

吉村洋文府知事は「大阪府市が一帯一路に参加することはありません」と述べています。松井一郎大阪市長も貨物をめぐる情報交換など港の実務レベルの連携協定に過ぎず、安全保障を脅かすような協定とは考えていないと強調しています。大阪港湾局は、MOUの締結を通じて武漢港との関係を深め、大阪港の貨物取り扱い量を増やし、港としての格付けを上げたいという期待や思惑を抱いているようです。確かに大阪港は平成七年の阪神大震災で大きな被害に遭い、以来地位低下に喘いでいます。未だ震災の後遺症から立ち直れず、MOUの締結で巨大港湾との関係を深め、港自体に往年の活況を取り戻したい。そういう思惑があったことは確かでしょう。

ですが問題は中国側が決してそうは考えていないことです。大阪を「一帯一路」に組み込んだと外交利用しているのです。例えば在日中国大使館はHPで昨年十二月十七日に「孔鉉佑駐日大使、『中国湖北―日本関西江海連運帯路互通協力プロジェクト』調印式および中国湖北―日本経済貿易協力マッチング会にビデオメッセージ」と題する記事を出しています。ここでも調印式の表題は「帯路」と明確に書かれています。「帯路」とは「一帯一路」の略称です。

中国共産党中央委員会の機関紙を発行する人民日報社運営の「人民網」も「『中国湖北―日本関西 地域のSer&River一貫輸送相互通航 協力プロジェクト』調印式」(Serは原文ママ)と報じています。プロジェクターに大きく写しだされた調印式の模様を写した写真にはやはり「帯路」の文字がありました。

「武漢を中心にして海と川(長江と思われる)を通して、大阪や名古屋、神戸と繋ぎ、コンテナを直接輸送する国際輸送ルート」と紹介し、国際定期貨物列車と接続し、「日本―武漢―中央アジア(欧州)のグローバル物流クローズド・ループを形成し、…地域経済の交流、協力が促進されると期待されている」とあります。中国側は大阪を「一帯一路」と一体に捉えているのです。

不可解なことは、協定が性急に取り交わされたことです。木下吉信市議の市会での質問主意書に大阪港湾局は「‥武漢港のある湖北省が令和三年十二月十六日に東京都で開催される(当該協力説明会)に合わせて締結を行いたいとの意向がありました」と回答しました。そして「先方の意向に合わせた日程により締結を行ったものです」と中国側の意向に沿って協定締結に至ったことをなんと大阪港湾局自身が認めたのです。

協定の調印式でも不可解なことがありました。協定の調印式は東京と武漢の二会場に分かれ、オンラインで結んで開催されました。ところが、東京の調印式会場では当日の文書や設営された会場のどこにも「一帯一路」という文言がありませんでした。一方、武漢での調印式会場では前述したように「帯路」の文字が盛んに使われ、「一帯一路」に大阪が組み込まれたように発表されています。

記録 A / CONFLICT (90°)

東京と武漢、ひとつの調印式に二つの表記

二枚のシートのハッチが90度で交差する領域が、同じ協定が二つの名前で呼ばれている範囲である。

シート A東京会場・覚書本文

  • 「パートナーシップ港提携に関する覚書(MOU)」
  • 当日の文書にも、設営された会場のどこにも「一帯一路」の文言なし
  • 取り交わされた覚書本文にも「一帯一路」の文言なし

シート B武漢会場・中国側の発表

  • 会場に「帯路」の文字が盛んに使用
  • 在日中国大使館HP「江海連運帯路互通協力プロジェクト」
  • 人民網が調印式として報道
  • 大阪港湾局「知らなかった」「中国側は一帯一路と結びつけて捉えてはいない」

CONFLICT府の公表資料に載った式次第のプロジェクト名は
「中国湖北―日本関西の川海連絡輸送 一帯一路 連通提携プロジェクト」

出典:本文§1の記述による。大阪府の公表資料、在日中国大使館HP(令和3年12月17日)、人民網、および大阪港湾局の回答。

取り交わされた覚書を見ると「一帯一路」という文言はありません。大阪港湾局は「一帯一路」と結び付けて中国側が報道していることについて「知らなかった」といい、「中国側はMOUを一帯一路と結びつけて捉えてはいない。あくまで覚書の通りに捉えていると認識している」などとしています。松井市長は市会で「日本政府の立場は『一帯一路』に参加はしないものの、協力はするという立場で拒絶はしておらず、協定締結に問題はない」と強調しています。

02安全保障上の危惧

スエズ運河やパナマ運河を経由せずわが国と欧州が中国の「一帯一路」を経て結ばれると四十五日掛かっていたヨーロッパへの船舶による貨物輸送は二十二日に短縮できます。そうした経済的メリットも盛んに強調されています。ジェトロ(日本貿易振興機構)やホンダ、トヨタ、イオン、三井、三菱など日本の主要な経済団体や企業の代表約三百人が武漢に出向き、調印式に参加したそうで、経済界も高い関心を持っています。

欧州への船舶による貨物輸送――

従来
45
「一帯一路」経由
22

確かに協定が継続した場合、波及効果は大阪や関西だけに留まらないでしょう。何しろ、所管する範囲が広く大阪港、堺泉北港、阪南港、泉州港、泉佐野港などが含まれています。大阪湾に面するほぼ全ての大阪の港が加わっているからです。

ですが、こうした動きは中国依存を間違いなく深めます。それだけではありません。米国など西側諸国が築いている対中包囲網の結束力を殺ぐことにならないか。例えば、ウイグル人への強制労働や人権侵害をめぐって西側諸国が一致結束して経済制裁に臨み、中国の蛮行をやめさせようとした場面で、こうした協定の存在が足枷になる場面も出てくることが懸念されます。欧州を結ぶ鉄路の途中には新疆ウイグル自治区の首府、ウルムチ市があります。ウルムチを通る物流網が強化されれば、人権侵害や奴隷労働が加速する恐れだってあります。「ウイグルを応援する全国地方議員の会」を率いる私としては到底看過できません。

五月二十三日の日米首脳会談では中国への対処策に多くの時間が割かれました。安倍晋三政権で進めていた日本、アメリカ、オーストラリア、インドの四カ国による外交・安全保障の協力体制(クアッド)も構築され、結束して地域の安全保障を支えていく場面で、わが国の物流の過半が中国の「一帯一路」に委ねられる。こうした状況は西側諸国の結束した取り組みに逆行したり、鈍らせたりしないか。日米首脳会談で米国と約束を交わしていながら、それが果たせない場面だって出てくるかもしれない。経済安全保障の観点からも問題があります。

オーストラリアでは今回の大阪のMOUのように、中国がヴィクトリア州政府に近づいてさまざまな協定を締結し、影響力を増大させていきました。地方から切り崩していく中国の手法はクライブ・ハミルトン著『サイレント・インベージョン オーストラリアにおける中国の影響』に詳述されていますが、なかでも州政府と協定を取り交わしていく手法がその第一歩でした。徐々に中国の影響力が増し、やがて「一帯一路」にオーストラリアを組み込んでいこうとする彼らの野望を察知したオーストラリアの地方議会関係者の尽力で次々と問題点が明るみに出されました。そして最終的には州政府の協定を国家が破棄するという異例の決着が図られたのです。

大阪港湾局が騙されている可能性は捨てきれませんが、無警戒で手玉に取られてしまうことは問題です。また、「一帯一路」に大阪が組み込まれたように喧伝されていながら、それに沈黙し、及び腰になることも許されないでしょう。いずれにしても協定の締結を機に中国が影響力を強めていく動きには神経を尖らせウォッチしなければならないと思います。

03おかしな入札

次に咲洲のメガソーラーについて考えていきます。

今回の咲洲のメガソーラー事業による入札は「太陽光発電事業に限定した大阪市有財産の貸付」という特異な入札でした。これは市の土地を業者に賃借させ、そこで必ず太陽光発電事業をやるように、と市が土地の使用用途を限定した入札が行われました。

落札したのは、伸和工業と日光エナジー開発という二社の連合体でした。入札が行われたのは平成二十四年十二月五日でした。入札は極めておかしなものでした。

記録 B / TENDER

入札で満たされなかった条件

塗りの四角は行われたこと。マゼンタで抜いた四角は、審査を経ずに通った箇所を示す。

  1. 二段階審査 実績・資力・資格を一次審査し、第二段階で価格提示に進むのが普通。今回は一回の入札で決定
  2. 複数の応札 伸和工業と日光エナジー開発の連合体、1者のみが入札し、そのまま落札
  3. 太陽光発電事業の実績 伸和工業は法人登記簿の事業欄に、入札の1カ月前に太陽光発電事業を書き加えたのみ。日光エナジー開発は設立して間もない会社
  4. 融資に足る入札期間 参加できた期間は18日。銀行の融資稟議を通すには、まず1カ月程度はかかる
  5. 納税証明書 入札実施要領で提出が求められていたが、日光エナジー開発は未提出。大阪市は履歴事項証明書で済ませた
  6. 定められたルールの充足 行政の説明では、いずれもルール上は問題なしとされている

出典:本文§3の記述による。大阪港湾局は入札期間について「入札の実態を考えて必要な日数と考えている。問題はない」と説明している。

まず、今回のように土地の利用用途を太陽光発電と限定するのであれば、入札は二段階で行われるのが普通です。入札に参加したい業者に果たして太陽光発電の実績があるか、あるいは事業遂行を果たしていくだけの資力があるか、あるいは事業に必要な資格などを備えているか、といった項目が一次審査され、第二段階で価格提示による入札となります。ですが、今回の入札は一回の入札で業者が決められました。伸和工業と日光エナジー開発の連合体一社のみが入札し、そのまま落札しているのです。

伸和工業には太陽光発電事業の実績がありません。それどころか同社の法人登記簿にある会社の事業欄が入札の一カ月前に新たに太陽光発電事業が書き加えられたにすぎません。日光エナジー開発に至っては設立して間もない会社で太陽光発電事業の実績などありません。

入札に参加できた期間が十八日しかないのも不可解です。通常、入札が告示され、応札したい業者は銀行に融資の申請を行って資金を調達するのが通常のやり方となります。そのためには事業計画を出し、資材の調達が滞りなくできるか調整し、事業計画のスケジュールなどを細かく整理します。社内の法令上の審査も経て臨みますから銀行の融資の稟議をパスするにはまず一カ月程度はかかります。到底十八日では間に合わないのです。なぜ、これほど短期間で入札を締め切るのか。大阪港湾局は「入札の実態を考えて必要な日数と考えている。問題はない」と説明していますが、この日程だとあらかじめキャッシュで資金を用意しているといった銀行の融資手続きが不要な業者に入札が限定されてしまう、と私たちは考えています。

また入札実施要領で提出が求められていた納税証明書を日光エナジー開発は提出していませんでした。納税証明書を提出する理由は、税の滞納がないことを明らかにすることで応札業者が信用できる業者だと確かめることにあります。日光エナジー開発は設立して間もない会社でまだ納税したことがなかった。これ自体は致し方ないのですが、そうした場合、納税証明書に代わる書類を求めるべきでした。大阪市は履歴事項証明書の提出で済ませました。これでは会社が実在することはわかっても信用力はわかりません。そこが確認されずに入札となったことも疑問です。

04疑問尽きない参入経緯

契約後の動きも疑念の連続でした。契約書には「六カ月以内に施工しなければ契約を解除できる」とあります。ところが伸和工業と日光エナジー開発は二十四年十二月二十六日の契約締結後、賃料を支払っていましたが一年三カ月もの長期にわたって工事を行いませんでした。国の入札なら予定された工事を六カ月放置すれば厳しい指導を受けるのが普通です。工事を続けるにしても改めて事業計画書を出し直すことが一般的ですが、それもない。太陽光パネルの調達ができていないという連合体の説明を額面通り受け止め「賃借料が滞りなく支払われている」(港湾局)ことを理由に不問に付しているのです。

そして二十五年十月になって二社から「事業継承について」という申請が出されます。伸和工業と日光エナジー開発の連合体から、二社を社員とする合同会社に事業を継承させるというものでした。大阪市は「事業主体の同一性が確認できる」として承認しましたが、おかしなことです。仮に経営破綻や事故が起きた場合、事業者が負う責任が連合体と合同会社では変わるためです。事業主体が同一であるはずがないとして前田和彦市議が疑義を呈して市側を追及しています。

二十六年七月になってさらに異変がありました。今度は合同会社の構成メンバーとなる社員だった日光エナジー開発が合同会社を退社し、代わって、「上海電力日本」が代表社員として加入するという変更でした。

記録 C / SUCCESSION

落札した会社と、いま発電している会社

三段のあいだに事業主体は入れ替わった。最後の一段に必要だったのは「届出」一枚である。

  1. H24.12

    伸和工業 + 日光エナジー開発

    連合体として落札

    入札応札1者・二段階審査なし

  2. H25.10

    合同会社(社員=上記2社)

    連合体から事業を継承

    承認「事業主体の同一性が確認できる」

  3. H26.07

    合同会社(代表社員=上海電力日本

    日光エナジー開発が退社し、上海電力日本が加入

    届出契約書13条。審査なし・拒否もできない

入札が行われた時点で、上海電力は日本法人を設立していなかった。参入したくても入札に参加できなかった会社が、いま発電している。

出典:本文§4・§5の記述による。契約書13条「乙(落札者)の住所又は氏名が変更になった時は甲(行政)に報告する」。

実はこの場合の行政手続きの法的根拠は不動産貸付の契約書にある「乙(落札者)の住所又は氏名が変更になった時は甲(行政)に報告する」(一三条)に過ぎません。合同会社が構成社員を変更するのは、会社の実態が変貌することを伴うケースがほとんどなのですが、契約書に照らすと「届出」で済んでしまいます。「許可」や「承認」ではなく「届出」ですから、変更した旨を行政に通知すれば終わりで審査はありません。拒否もできないのです。

私たちの追及に大阪港湾局、松井市長ともに「法的な問題はない」と強調しました。ただ、合同会社のメンバー変更が「届出」で済んでしまうことについては「届出」ではなく今後は協議事項とするか検討する意向を表明しました。こうした手法が罷り通れば、反社勢力でも参入が可能だからです。こう見ると確かに上海電力日本は定められたルールをすべてクリアして事業主体になっていることがわかります。その意味で違法性は確認できていません。

05入札の形骸化

ですが問題はあります。それはまず入札・契約・工事という経過を見ると首を傾げる点が多すぎることです。定められたルールはクリアされたことになっていますが、入札までの時間や必要書類の不備、行政側の対処、判断などといった点で不自然なことが多すぎます。特になぜ、こんな歪な入札になったのか。そこに政治家の介入などはなかったのか…大阪港湾局の説明は到底納得できるものではありませんし、追及が必要と思っています。府市には一層の説明責任が求められましょう。

最も深刻かつ根本的な疑念は入札で落札した会社と現在、太陽光発電事業を行っている企業が異なることです。これでは入札を実施した意味がありません。現在、発電している上海電力は入札が行われた時点では日本法人を設立していませんでした。上海電力は参入したくても入札に参加できなかった。それが現在は、上海電力の日本法人が請け負っています。

上海電力は法を犯してはいません。ですが制度として問題は残ります。繰り返しますがこれでは入札を実施した意味がないからです。合同会社の社員変更などを使ったことによる入札をパスしての事業参入に対する制度上の検証などは国政上の課題といえるでしょう。

ちなみに仮に上海電力が日本法人を設立していれば当時の入札に参加可能でした。多くの国民が誤解していますが、同社は経団連のメンバーでもあります。外為法が改正され発電事業などへの参入において一定の条件を満たす外資企業に審査が課されるようになりましたが、一口に外資企業といっても形態は実に様々です。日本法人があれば入札では日本企業と同様に取り扱われるのが一般原則です。

興味深いのは全国の太陽光発電事業をめぐる合同会社の登記を伸和工業が同一住所に多数行っていることです。ここまで見たように入札に参加しなくても合同会社の社員になる形で容易に事業参入が可能となってしまいます。合同会社自体を売買の対象にすれば、大きなビジネスにもなりえます。

合同会社は規制緩和の流れで投資喚起を目的に生まれた新たな会社形態ですが、脱法的に入札制度を形骸化させてしまう負の側面が明らかになりました。外資でも反社でも事業参入を許してしまうため、早期に制度を改善する必要があります。それは国がやるべきテーマではありますが、そのためには、こうした不可解な入札手続きが行われた大阪府市による徹底的な真相究明が欠かせません。

(小坪慎也)

資料 / SOURCES

  • 大阪市 報道発表資料「中国の武漢新港管理委員会とパートナーシップ港提携に関する覚書(MOU)を締結します」
    ― 本文§1が引用した大阪市の公表。締結日は令和3年12月16日
  • 大阪府 公表資料(覚書の調印式 式次第)
    ― 本文§1。プロジェクト名に「一帯一路」が含まれていた一次資料
  • 在日中国大使館HP(令和3年12月17日)/人民網
    ― 本文§1。調印式を「帯路」と表記した中国側の発表
  • 大阪市会 木下吉信市議の質問主意書に対する大阪港湾局の回答
    ― 本文§1。締結日程が中国側の意向に沿ったものであることを認めた回答
  • 大阪市会 前田和彦市議による質疑
    ― 本文§4。事業主体の同一性への疑義
  • クライブ・ハミルトン『サイレント・インベージョン オーストラリアにおける中国の影響』
    ― 本文§2。ヴィクトリア州政府の事例

編集付記 ― ウェブ掲載にあたって

本稿は令和4年8月号掲載時点の記録であり、原文には手を入れていない。関連する当職の記事を下記に添える。

「正論」令和4年8月号 特集「電力と国家」 pp.60-67/小坪慎也(福岡県行橋市議)

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